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AIはオフショア開発を終わらせるのか――アフリカの若手IT人材に迫る「成長の梯子」の再設計

生成AIが、システム開発の現場に急速に入り込んでいる。当初はプログラムを書く作業を補助する程度だったAIも、現在では、指示を与えることで複数のプログラムを修正し、テストや不具合修正まで行えるようになってきた。こうした状況を見ると、一つの疑問が浮かぶ。「人件費の安い国に開発業務を移すオフショア開発は、AIによって必要なくなるのではないか」

そして、この問題はアフリカにとって特に重要である。アフリカは若年人口が非常に多く、多くの国がIT産業を将来の雇用創出の柱として位置付けてきた。Andelaのように、アフリカの若者をIT人材として育成し、世界市場につなげようとしてきた企業もある。ところが、若手が十分な実務経験を積む機会を得る前に、AIによる開発効率の急激な向上が始まった。これから若手IT人材は、どのように経験を積み、成長していけばよいのだろうか。

2026年時点では、オフショア開発はまだ消えていない

現時点では、AIによってオフショア開発市場が急速に縮小しているとは言いにくい。むしろ興味深いのは、TCS、Infosys、Wiproといった世界的なITサービス企業自身が、AIを大規模に導入していることである。つまり、「AIを使う企業」と「オフショアを使う企業」が別々に存在しているわけではない。

オフショア開発を提供する企業もAIを使い始めている。したがって今後の競争は、「AIとオフショアの競争」ではなく、「AIを使う国内開発チームと、AIを使う海外開発チームの競争」になると考えた方がよい。

まず減るのは「案件」ではなく「必要人数」

AIの影響がまだ大きく見えない理由の一つは、企業の契約や予算、人員配置が技術の進歩よりもゆっくり変わることにある。特に大企業では、既存の契約や開発体制があるため、AIが導入されたからといって、すぐにオフショア開発をやめるわけではない。そのため当面は、「オフショア案件がなくなる」のではなく、「同じ仕事に必要な人数が減る」という形で影響が表れる可能性が高い。

例えば、これまで20人必要だったプロジェクトが、AIを活用することで10人程度でも進められるようになるかもしれない。案件そのものは残っていても、必要となる人月は大きく減る。これは、比較的経験の浅い技術者を多数配置することで価格競争力を作ってきた従来型のオフショア開発にとって、大きな変化である。

最も大きな影響を受けるのは若手かもしれない

生成AIが得意とするのは、定型的なプログラムの作成、テスト、画面作成、簡単な不具合修正、資料作成などである。そして皮肉なことに、これらはこれまで若手技術者が経験を積むために担当してきた仕事でもある。従来は、

簡単な作業

不具合修正

機能開発

設計

大規模システム

という順序で経験を積み、熟練した技術者へ成長していった。しかしAIが最初の数段階を担当するようになると、「若手が熟練者になるための仕事そのものが減る」という問題が生じる。

AI時代の本当の問題は、単純に「技術者が不要になるか」ではない。経験の浅い人が、どこで実務経験を積むのか。こちらの方が重要である。

この問題はアフリカにとって特に大きい

アフリカでは、若年人口の多さを背景に、多くの国がソフトウェア開発、クラウド、情報セキュリティ、データ分析などのIT人材育成を進めてきた。Andelaもその代表例であり、ルワンダを含むアフリカ各国で若手IT人材の育成に取り組んできた。こうした人材育成は今後も重要である。

しかし、従来の成長経路はそのままでは成立しにくくなる。

プログラミングを学ぶ

海外企業から比較的簡単な開発仕事を受ける

経験を積む

企業にとって、少人数の熟練技術者にAIを使わせる方が効率的な場合が増えるからだ。

「若手技術者」の定義を変える

そこで必要になるのが、若手技術者の育て方そのものを変えることである。これまでの若手技術者は、「まだプログラムを書く能力が十分ではない人」という位置付けだった。これからは、「AIを使えば小規模なシステムを一通り作ることができるが、設計判断や品質管理については熟練者の支援を必要とする人」と考えた方がよい。

若手の段階から、一部分だけを担当させるのではなく、

  • 顧客の要求を理解する
  • システムの構成を考える
  • AIを使って実装する
  • テストする
  • 実際の環境で動かす
  • 問題を調査して修正する

という一連の流れを経験させる。AIによってプログラムを書く時間が短縮されるのであれば、その分、若手にも開発全体を経験させることができる。これはAIが若手に与える大きな利点でもある。

AIを使わせない教育では解決しない

若手を育てるためにAIを禁止する、という方法も適切ではない。実際の開発現場がAIを使う方向へ進んでいる以上、教育だけを昔の方法に戻しても、市場で活躍できる人材にはなりにくい。重要なのは、ITの基礎知識とAI活用を同時に学ぶことである。

ネットワーク、データベース、セキュリティ、プログラムの仕組みなどの基礎は、今後も必要になる。そのうえでAIを使い、

  • AIが作ったものを理解する
  • 正しいか検証する
  • 問題を見つける
  • 修正する
  • なぜその設計にしたのか説明する

という能力を身につける。「AIが作ったので分かりません」では、技術者として十分とは言えない。AI時代には、単にプログラムを書く能力よりも、AIが作ったものを理解し、評価し、責任を持てる能力が重要になる。

企業も「AIか若手か」という考え方を変える必要がある

企業側にも課題がある。短期的には、「AIを使えば若手を採用しなくてもよい」という判断には合理性がある。しかし、多くの企業が同じ判断を続ければ、将来の熟練技術者が育たなくなる。現在の熟練者も、最初から熟練者だったわけではない。若手時代に仕事を経験することで成長してきた。

したがって企業が目指すべきなのは、「熟練技術者+若手技術者+AI」という組み合わせである。熟練技術者は自分ですべてを作るのではなく、設計や仕事の切り分け、確認、品質管理を行う。若手もAIを使いながら実際の仕事を担当する。

AIを「若手を削減するための道具」だけではなく、熟練者が若手を育てながら、同時に高い生産性を実現するための道具として使うことが重要になる。

「プログラマーを何人育てたか」だけでは意味がなくなる

アフリカのIT人材育成政策についても、評価基準を変える必要がある。従来は、

  • 何人がプログラミング研修を受けたか
  • 何人が資格を取得したか
  • 何人が講座を修了したか

といった数字が重視されてきた。しかしAI時代には、それだけでは十分ではない。より重要なのは、「何人が実際のシステム開発や運用を継続して経験したか」である。学習用の課題を大量にこなすよりも、実際のシステムで問題が発生し、原因を調べ、修正し、その結果を確認する経験の方が大きな価値を持つ。

研修

実務研修

実際の開発・運用経験

専門分野の確立

今後の人材育成は、このような形へ変えていく必要がある。

汎用的な技術者から、専門分野を持つ技術者へ

さらに今後は、単に「システム開発ができる」というだけでは差別化が難しくなる。例えば金融分野なら、プログラムを書く能力だけでなく、決済の仕組み、本人確認、資金決済、金融規制などについて理解する。すると、その人は単なるシステム開発者ではなく、決済分野に強い技術者になる。

同じように、

  • 医療
  • 農業
  • 物流
  • 情報セキュリティ
  • クラウド基盤

など、特定分野の知識を持った技術者への成長が重要になる。AIは一般的なプログラムを高速に作ることができる。しかし、その国の制度や商習慣、産業構造、既存システムを理解し、現実の問題をITで解決する能力は簡単には代替できない。これから価値が高まるのは、「IT技術+業界知識」を持った人材である。

海外から仕事をもらうだけがIT産業ではない

これまでアフリカのIT人材育成は、次のようなモデルで考えられることが多かった。

アフリカで人材を育成する

欧米企業などから開発業務を受注する

しかしAIによってシステム開発コストそのものが下がれば、これまで採算が合わなかった国内向けのシステムを作れるようになる。アフリカには、小売、農業、物流、医療、教育、行政、決済、中小企業経営など、まだ十分にデジタル化されていない分野が数多く存在する。

地域の課題

若手+AIでシステムを開発

実務経験を獲得

地域のデジタル化

技術者が成長

という循環を作ることができる。これは、海外企業から単純な開発作業を受注するだけのモデルよりも、長期的には強いIT産業につながる可能性がある。

AIはオフショアをなくすのではなく、その価値を変える

AIによってオフショア開発そのものがなくなる可能性は低い。世界中の優秀な技術者を活用する意味は今後も残るからだ。しかし、「人件費の安い若手技術者を大量に投入する」ことを競争力とするオフショアモデルは、確実に価値を失っていくだろう。

これから競争力を持つのは、

優秀な技術者
+ 業界・専門知識
+ AI

を持つ組織である。そしてアフリカの人材戦略も、「プログラマーを育てて海外へ提供する」という発想から、次のような方向へ変えていく必要がある。

AIを使いこなす技術者を育てる

実務経験を与える

専門分野を持たせる

地域の課題を解決するとともに、高付加価値な技術を世界へ提供する

AIによって「プログラムを書く」という仕事の価値は下がるかもしれない。しかしそれは、アフリカがIT人材育成を諦める理由にはならない。むしろ問われているのは、「プログラマーを何人育てるか」ではなく、「技術者をどう育てるか」なのである。

AIは、アフリカの若手からチャンスを奪う技術にもなり得る。同時に、これまで数年かかっていた開発経験を圧縮し、世界水準の人材へ一気に成長するための道具にもなり得る。そのどちらになるかは、AIそのものではなく、これから企業、教育機関、政府がどのような「成長の梯子」を設計するかにかかっている。

参考資料

本稿の背景となるAIによるIT産業・雇用構造の変化、アフリカのデジタル人材育成について、以下の資料を参考にしています。

  1. World Economic Forum「Artificial Intelligence and the Future of Entry-Level Work」(2026)
    AIによって若手・初級職がどのように変化するのかを扱った報告書。本稿で取り上げた「AIが若手の仕事を代替することで、将来の熟練人材を育てるための経験機会まで失われる可能性がある」という問題と直接関係する。
    Artificial Intelligence and the Future of Entry-Level Work
    WEFは、定型業務の自動化だけでなく、企業が若手のキャリア形成や初期の実務経験を再設計する必要性を論点としている。
  2. World Economic Forum「The Future of Jobs Report 2025」
    AI・データ、情報セキュリティなどの技術スキルへの需要が高まる一方、AIによって自動化可能な業務では人員削減を想定する企業も多いことを示した世界的な雇用調査。
    The Future of Jobs Report 2025
    「単純なプログラミング能力だけではなく、AI活用や専門性を持った人材の価値が高まる」という本稿の背景となる資料。
  3. Gartner「AI Agents Reshape IT Outsourcing: Implications for CIOs」(2026)
    AIエージェントが、従来の人件費や拠点コストの差を利用したITアウトソーシングモデルを変化させ、成果を基準としたAI活用型サービスへ移行させる可能性を論じている。
    AI Agents Reshape IT Outsourcing: Implications for CIOs
    本稿の「オフショアそのものがなくなるのではなく、安価な人員を大量投入するモデルの価値が低下する」という議論に近い。
  4. Microsoft「Infosys, TCS and Wipro scale Microsoft 365 Copilot to over 300,000 employees」(2026)
    Infosys、TCS、Wiproの大手ITサービス3社が、それぞれ10万人以上、合計30万人以上にMicrosoft 365 Copilotを展開していることを紹介。
    Infosys, TCS and Wipro scale Microsoft 365 Copilot to over 300,000 employees
    「AIを利用する企業」と「オフショアを利用する企業」が分かれるのではなく、オフショア企業自身が急速にAIを導入していることを示す事例。
  5. Tata Consultancy Services「TCS begins FY27 with continued growth」(2026)
    TCSは2026年4~6月期に、AI関連事業の年間換算売上が26億ドルに達したと発表している。
    TCS Q1 FY2027 Financial Results
    世界最大級のオフショアITサービス企業が、AIを脅威として見るだけでなく、自らのサービスモデルに大規模に組み込んでいることを示している。
  6. Reuters「In the AI age, firms chase growth but with fewer workers」(2026)
    インドのIT・グローバル拠点を取材し、企業が事業拡大を続けながらも、大量採用ではなくAIによる生産性向上と専門人材の採用を重視する方向へ変化していることを報告している。
    In the AI age, firms chase growth but with fewer workers
    本稿の「案件そのものがなくなるよりも、まず同じ仕事に必要な人数が減る」という考察を理解するうえで参考になる。
  7. Reuters「Global firms rethink GCC hiring in India as AI shifts skill demand」(2026)
    AIによって定型的な初級業務が減少する一方、AI、データ、情報セキュリティなど高度な能力を持つ人材への需要が高まっているインドの状況を報告。
    Global firms rethink GCC hiring in India as AI shifts skill demand
    若手の入口となる仕事が減少し、「大量の若手」から「専門能力を持つ人材」へ需要が移る可能性を示す具体例となっている。
  8. Reuters「India’s GCC model shifts from cost to capability as AI, talent strains bite」(2026)
    インドのグローバル企業拠点が、低コストな労働力を提供する場所から、製品開発、分析、研究開発など高度な業務を担う拠点へ変化していることを紹介している。
    India’s GCC model shifts from cost to capability as AI, talent strains bite
    オフショアの競争力が「人件費の安さ」から「人材の能力」へ移行していくという本稿の議論を補強する事例。
  9. World Bank「Empowering Africa’s Youth: Bridging the Digital Skills Gap」
    サブサハラ・アフリカでは2030年までに約2億3,000万の仕事でデジタルスキルが必要になるとの推計を紹介している。
    Empowering Africa’s Youth: Bridging the Digital Skills Gap
    アフリカ各国がデジタル人材育成を重要な雇用・産業政策として位置付けてきた背景を理解するための資料。
  10. United Nations「Young People’s Potential, the Key to Africa’s Sustainable Development」
    サブサハラ・アフリカでは人口の約70%が30歳未満であることを紹介している。
    Young People’s Potential, the Key to Africa’s Sustainable Development
    若年人口の多いアフリカにとって、若者の雇用と能力開発が非常に大きな政策課題であることを示す基礎資料。
  11. Andela「Andela Technical Leadership Program: Investing in Africa’s Tech Ecosystem through Talent Development」
    ルワンダで実施されている9か月間の技術者育成プログラムについて紹介している。技術研修だけでなく、チーム開発や実務につながる能力育成を重視している。
    Andela Technical Leadership Program
    本稿で述べた「研修だけではなく、実際の開発経験につなげる必要がある」という考え方の具体例となる。
  12. Andela「Partnership to Train 30,000 African Technologists on Kubernetes Sparks Career Growth & High Demand」(2025)
    Andela、Linux Foundation Education、Cloud Native Computing Foundationが、3万人のアフリカ人技術者を対象として、クラウド関連技術の育成を進めている取り組み。第1段階では46カ国から5,600人が研修を修了し、1,900人以上が資格を取得した。
    Partnership to Train 30,000 African Technologists
    単なる汎用プログラマーではなく、クラウド基盤など専門性を持った人材へ育成していく方向性を示す事例。
  13. World Bank「Social Protection & Jobs – On-the-job training and apprenticeships」
    教室での教育だけでなく、企業でのインターンシップや実務研修を組み合わせることが、若者の就業経路や中長期的な所得改善につながることを紹介している。
    World Bank – Social Protection & Jobs
    本稿で提案した「研修 → 実務研修 → 実際の開発・運用経験」という育成モデルの背景となる考え方。

補足

本稿の「AIによってオフショア開発そのものが消滅するのではなく、人員構成・求められる能力・契約モデルが変化する」「若手をAIで置き換えるだけでは将来の熟練技術者が育たない」「アフリカはAIを前提とした新しい技術者育成モデルへ移行できる」といった部分は、上記資料で確認できる個別の事実や傾向を踏まえた考察です。

特に、AIによる初級業務の減少大量採用から専門人材重視への移行オフショアの低コストモデルから能力重視モデルへの変化は、2025~2026年の複数の調査・事例ですでに確認され始めています。一方で、その変化をアフリカの若手人材育成と結び付け、「AIを使いながら実務経験を早期に積ませる」という方向性は、本稿における提案・考察となります。