リープフロッグの意味を、いま改めて考える ――アフリカで生まれる課題解決が、日本の未来を支える
「アフリカでは、固定電話網の整備を待たずに携帯電話が普及し、銀行支店が十分にない地域でもモバイルマネーが広がった」
リープフロッグを説明するとき、よく使われる例である。
既存のインフラを一段ずつ積み上げるのではなく、途中の段階を飛び越えて、新しい技術や仕組みを導入する。理屈は分かりやすい。しかし、日本にいる私たちは、それをどこか遠い国の成功物語として見てはいないだろうか。
リープフロッグの価値は、インフラ整備の途上にある国や地域が、整備の進んだ国々との差を一気に縮めることにとどまらない。
インフラが十分に整っていないからこそ、既存の仕組みや過去の前提に縛られず、その地域の需要や所得水準、新しい技術に合った方法を選ぶ余地がある。そこで生まれた課題解決は、人口減少や人手不足によって既存インフラの維持が難しくなっている日本のような国々にも、応用できる可能性がある。
設備を導入するだけでは、課題は解決しない
アフリカの社会課題は、しばしば「必要な設備が足りない」という形で説明される。
発電所が足りない。農業機械が足りない。道路や配送車両が足りない。冷蔵倉庫が足りない。
もちろん、設備の不足そのものは大きな問題である。しかし、実際に事業を始めようとすると、さらに難しい壁にぶつかる。設備を導入できたとしても、その地域の需要と所得水準では、従来と同じ販売方法や運用方法では採算が合わないことだ。
例えば電力では、人口が分散している地域まで大規模な送電網を延ばしても、得られる電力料金に対して建設費や維持費が大きくなりやすい。
そこでBboxxのような企業は、小型の太陽光発電設備と蓄電池を各家庭や事業者に設置し、モバイルマネーを利用して少額ずつ支払う「Pay-as-you-go」方式を展開している。利用者は高価な設備を一括購入せず、必要なサービスを利用可能な単位で購入できる。
農業機械も同様で、小規模農家が各自でトラクターを購入しても、年間を通じた稼働時間が短ければ投資を回収できない。
Hello Tractorは、農家の需要を集約し、機械の所有者やオペレーターと結び付けることで、農家が必要な時期だけ農業機械を利用できる仕組みを提供している。
高価な機械の所有を広げるのではなく、一台の機械を地域内で効率的に稼働させる考え方である。
医療物流では、すべての地域に倉庫を建設し、多数の車両と在庫を配置する方法が必ずしも効率的とは限らない。
ルワンダではZiplineのドローンが、血液や医薬品を必要な医療施設へ必要な時に届ける仕組みを構築した。道路や車両が十分にそろうまで待つのではなく、緊急性が高く小型の物資について、既存の物流網とは異なる方法で課題を解決している。
これらの事例に共通するのは、単に新しい機械を持ち込んだことではない。
誰が費用を負担するのか。どの単位で利用してもらうのか。分散した需要をどう集めるのか。設備を誰が保守するのか。限られた設備を、どのように高い稼働率で使うのか。
技術と同時に、料金、運用、保守、需要の集約方法を設計することで、これまで採算が合わなかった領域を事業として成立させようとしている。
リープフロッグとは、現代の技術によって社会課題を一気に飛び越え、解決することだと説明される。しかし、もう少し解像度を高めて捉えるなら、従来の方法では採算が合わなかった課題に対し、技術の使い方と事業の仕組みを現地の条件に合わせて組み直し、持続可能な事業として成立させることだと言える。
「鶏が先か、卵が先か」の問題
この構図が分かりやすく現れる例の一つとして、食品のコールドチェーンを挙げる。コールドチェーンとは、野菜、牛乳、魚、肉などを、生産地から市場や消費者まで適切な温度で運ぶ仕組みだ。

ルワンダでは、農業がGDPの27%、輸出収入の34%を占める一方、食料生産の約40%が収穫後に失われているとの推計がある。トマトでは、損失率が49%に達する例も報告されている。背景には、予冷設備、冷蔵倉庫、冷蔵輸送、安定した電力、集荷拠点などが十分につながっていないという問題がある。
しかし、冷蔵施設を建設すれば利用が広がるとは限らない。『The New Yorker』が取材した事例では、世界銀行が支援した冷蔵施設について、周辺農家の少なくとも96%が利用していないとの推計が紹介されている。設備の運転費が農産物の価格に対して高ければ、農家や流通事業者は利用できない。
先進国と同じ大型冷蔵倉庫や冷蔵車を導入しても、取扱量が少なく、輸送密度が低い地域では投資を回収しにくい。一方、コールドチェーンがなければ農産物の損失が減らず、市場も拡大しない。インフラを整備するには一定の需要が必要だが、その需要を育てるためにもインフラが必要になる。
まさに「鶏が先か、卵が先か」である。
この状況に対応する方法として、太陽光発電、蓄電池、小型冷蔵設備、共同配送などを組み合わせ、地域の需要に合った規模から始める取り組みが進められている。農家が設備を購入するのではなく、保管する量や日数に応じて料金を支払うことで、利用者の初期投資を抑える。電力、保管、集荷、販売までを一体として設計し、利用の増加に合わせて設備を拡張することで、コールドチェーンを継続可能な事業として成立させようとしている。
Kivu Cold Groupが目指す、継続して利用できるコールドチェーン
ルワンダと日本の企業による合弁として2020年に設立されたKivu Cold Groupも、こうした課題に挑む企業の一つである。
同社が掲げているのは、環境負荷を抑えたオフグリッド型のコールドチェーンである。
太陽光発電や蓄電池を使えば、電力網が不安定な地域にも冷蔵設備を設置できる。しかし、設備を置くことは出発点にすぎない。
どの地域で、どの農産物が、いつ、どれだけ収穫されるのか。
冷蔵設備に十分な利用量が集まるのか。保管後の商品を誰が、どの市場へ運ぶのか。電力や温度をどのように維持するのか。故障した場合に誰が修理するのか。利用料金をどの水準にすれば、農家の利益を損なわず、設備の運営費も回収できるのか。
こうした条件がそろわなければ、技術的には優れた冷蔵設備であっても、使われなくなる可能性がある。
そのため、コールドチェーンの構築では、冷蔵設備、電力、輸送、保守、利用料金、販売先までを一つの事業として考える必要がある。
複数の農家や事業者の需要をまとめ、限られた設備を効率的に使い、保管によって減らせた損失や高く販売できた価値の中から、運営費を生み出さなければならない。
そして、ITは、この全体を支える役割を担う。
在庫や温度、電力、設備の稼働状況を把握する。収穫量と保管需要を予測する。集荷や配送をまとめる。異常を早期に検知し、保守担当者につなぐ。さらに、どの地域、商材、料金であれば事業が成立するのかをデータから検証する。
こういった観点からも、アフリカにおけるITの活用は、既存の業務を便利にする付加機能といった段階を大きく超え、たとえ物理的な設備が少なくてもその仕組みを成立させ、継続的に運営するための重要な基盤であると言える。
アフリカでの課題解決が、日本にも必要になる?
一見すると、アフリカと日本の課題は正反対に見える。
アフリカでは、人口と将来需要はあるが、電力、道路、倉庫、車両といったインフラが十分でない。
そのため、大規模な設備を先にそろえても採算が合わず、少ない資源を効率よく使いながら、需要の成長に応じて拡張する方法が必要になる。
日本では、すでに高度な物流網とコールドチェーンが整っている。
しかし、人口減少と高齢化によって、それを支える人と需要密度が失われつつある。国の試算では、対策を講じなければ2030年度に輸送能力が34%不足する可能性が示されている。
これまで人手と物量によって成立していたサービスが、同じ方法では維持できなくなる地域も増えるだろう。
出発点は違っても、行き着く問いは似ている。
少ない車両、少ない人員、限られた電力や需要の中で、どうすれば必要な場所へ必要な量を届け続けられるのか。

そこで、アフリカ向けに開発した課題解決の方法が、日本でも意味を持つ可能性がある。
分散した小型冷蔵拠点を遠隔で監視する。地域の複数事業者が設備や空き容量を共有する。需要に応じて集荷と配送をまとめる。太陽光と蓄電池を活用して、停電時や災害時にも最低限の冷却を維持する。専門知識を持つ人が現地に常駐しなくても、異常を早期に検知し、保守を支援する。
こうした方法は、離島や中山間地域、過疎地の物流、買い物弱者への配送、災害時の医薬品・食品輸送にも応用できる。
日本で作った技術をアフリカへ輸出する、という一方向の発想だけではない。
厳しい制約の中でアフリカと共につくった課題解決の方法を、日本の縮小社会へ持ち帰る。遠い地域の課題解決が、日本のこれからを支える技術と事業になる。
そこに、リープフロッグを今あらためて考える意味がある。
リープフロッグへの投資は、未来への共同研究である
リープフロッグを「インフラの遅れを新技術で取り戻すこと」とだけ理解すると、支援する側と支援される側という構図から抜け出せない。
しかし、アフリカが直面しているのは、資源制約、気候変動、分散した需要、エネルギー価格、人材不足といった、世界中がこれから直面する課題の先行形でもある。
だからこそ、リープフロッグの最前線への投資は、アフリカだけに恩恵をもたらすものではない。
それは、制約の多い未来でも持続できる仕組みを、若い市場と共に考え、実践することであり、新しい事業を生み出す投資でもある。
アフリカ×ITの事業機会を、人口増加に伴うソフトウェア市場の拡大だけで捉えると、その可能性の一部しか見えない。より大きな機会は、これまで採算上の理由から手を付けられなかった社会課題に対し、データや再生可能エネルギー、現地の知見を活用し、継続可能な事業の形をつくることにある。
そこで磨かれた解決策は、やがて日本のように、人口減少や人手不足の中で既存のインフラを維持しなければならない国々にも応用できる可能性がある。
この視点に立てば、リープフロッグは、私たちがまだ持っていない未来の仕組みを、異なる条件にある地域と一緒につくっていくストーリーとして捉えることもできる。
その最前線には大きなビジネス上の可能性があり、挑戦する価値があるのではないだろうか。
補足:本文で参照した事例・資料
Pay-as-you-go型の太陽光発電
農業機械の共同利用・従量型導入
ルワンダの医療用ドローン配送
ルワンダのコールドチェーン
- Kivu Cold Group:Off-grid Cold Chain
- Clean Cooling Network:Building Rwanda’s cold-chain
- The New Yorker:Africa’s Cold Rush and the Promise of Refrigeration
- Associated Press:アフリカの太陽光冷蔵設備